「大切なのは、その人にあった服の着方、フィッティングです」。そう言って記者の後ろからベルトをつかんでズボンを引き上げ、膝裏の生地を軽く引っ張る。ズボンのしわが消え、お尻が上がり、足が長くなったように見えた。「この高さがあなたの骨盤にあったズボンをはく位置よ」と教えてくれた。
四十年間、洋服直しを専門にファッション業界に身を置いてきた。体形に合わせたフィッティング、洋服を美しく、着心地良く着る直しの技術は、アルマーニやプラダ、ルイ・ヴィトンなど海外の高級ブランドからも高く評価されている。
二十代のころは、デザイナーとして活躍。サンプル作りまで手がけ、裁縫の技術を高めた。結婚、出産を機に仕事を抑えたが、三十三歳の時に夫が病気で他界。子ども二人を抱え、デザイン会社に再就職したが、心に余裕がなく思うようなデザインができずに辞めた。
当時、多くの海外ブランドが国内に進出してきた。ある日、アルマーニの輸入元に勤める知人から「アルマーニのスカートの丈をつめて」と依頼された。雑誌の撮影用で、納期はわずか一日。繊細な生地がいくつも重なり、特殊な縫い方で仕上げられたスカートだった。難しい作業だったが、「きれいな服を直せて楽しい」と一晩で完成させた。
後日、都内であったアルマーニの開店パーティーで、知人と再会。パーティーで売れた大量の服を渡され、「すべて直して」と依頼された。大柄な外国人向けの服を、デザインやバランスを崩さず日本人サイズに直す長屋さんの丁寧な仕事は評判となり、ほかのブランドからも仕事が舞い込むようになった。
活躍の場はファッションショーにも拡大。ブランドが日本で開くショーに呼ばれ、モデルの体形に合わせて、瞬時にフィッティングと直しを施す。その技術は高く評価され、今も有名ブランドのショーを陰で支えている。
十年ほど前には、中央区の銀座三越に直しとリフォームを手がける「アトリエロングハンス」を開いた。高級ブランドからファストブランドまで持ち込まれるといい、「フィッティング次第でもっとすてきに服は着られる。値段やブランドは関係ない」と言い切る。そして「きれいに直せば親からもらった服も着ることができる。直してから十年着られる服を作りたい」と話している。 (西川正志)
<ながや・えみこ> 岐阜市出身。洋服を美しく、着心地良く着るためのアドバイザー「モードフィッター」を名乗り、映画やCMなどの衣装のフィッティングも手がける。アトリエロングハウスは完全予約制。問い合わせ=電03(3562)7012
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