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オリンピック・パラリンピックの開会式や表彰式でアスリートらが着る服は、「公式服装」と呼ばれている。イタリアはアルマーニ、アメリカはラルフ・ローレンなどが手がけ、それぞれの国を代表する「顔」となる服だ。東京2020で日本代表の服を用意するのは、紳士服で知られる「AOKI」。どんな服をどう作るのか、そしてコロナ禍への思いを聞いた。
白いジャケットに目を近づけると、日本伝統の文様で、縁起の良い柄とされる「工字
今回AOKIが作るのは、白ジャケットに赤いパンツの開会式用の服と、表彰式などで着る紺に金ボタンの式典用服。ジャケットは、遠目には白に見えるが、上品な淡いベージュ。真っ白な襟のシャツと合わせて選手の顔をパッと輝かせる。金ボタンは、時を経ても色あせずに輝くよう東京・下町の職人と共に仕上げた特注品だ。生地も縫製もすべて日本国内で仕上げ、パートナーとしてかかわる工場は約30社にのぼる。 「アスリート・ファースト」 で、日本の技術の粋を集めた 「日本を
本田さんは東京モード学園の1期生だ。アパレル勤務を経て、1992年からAOKIに入社。プライベートブランドなどを手がけてきた。多彩なスーツを提案してきたが、公式服装には「独特の使命感と緊張感、AOKIにとっての大きな挑戦」があるという。
開会式で着る白と赤は、1964年の東京五輪と同じ色の組み合わせだ。JOCで
そのレガシーに敬意を払いながら上下の色を逆にし、アスリートたちと意見交換しながら、デザインを仕上げてきたという。
トップアスリートの服を仕立てるのは難しい。競技によって、筋肉の付き方や厚み、体形などが違い、また、本番に向けて調整を進めるうちにサイズが変わってくるからだ。
そのため、公式服装は、すべて採寸して作る。今回初めてオリンピック・パラリンピックと同じデザインが採用されることになり、約3200人分の服を作ることになった。「AOKI」では、「フィッタープロジェクト」を作り、各店舗から技術力の優れたスタッフを選抜。1人あたり5~7分で採寸をすませられる態勢を整えたという。本番時に体型やサイズが変わっても着られるよう「緊急補正チーム」も作り、国内の縫製工場で素早く「お直し」するという。
車いすに着座したときに、脚が美しく見えるか、ジャケットの形が崩れないかなど、「選手一人ひとりが一番輝く瞬間」(本田さん)を思い描いて服を作り、「エンブレム一つとっても、それぞれの人にあわせて微妙に位置を調整しています」。
他国のデザインが気になりませんかと水を向けると、「今回の公式服装は、国としてのアピールというより、ホスト国としてお迎えするために礼節を尽くすのが役割だと思っているので、あまり気になりません」と本田さんは微笑んだ。
「AOKI」が公式服装を作るのは、2018年の韓国・平昌での冬季五輪に続き2度目だ。
公式服装をどこが担当するかは、JOCが「公募」で選ぶ。選考については「コンセプト等を含めた要項に基づき、オリンピアン、パラリンピアンも含めた服装選考委員会で総合的に検討して決定」(JOC広報)し、何社が参加したかは公表されていない。公募時に式典服・開会式服を合わせた1 人分の目安として、12万円(税別)と提示されている。
なぜ五輪に挑戦しているのか。最初は、本田さんと、平昌の公募時はマーケティング担当で、現在は社長に就任している上田雄久さん(39)が2人で始めたプロジェクトだったという。
上田さんは「オリンピックという世紀の祭典に、我々の洋服で参加できるなら、ぜひチャレンジしていかなきゃいけないなという使命感がありました。経営理念に社会性・公益性・公共性の追求があり、我々がお手伝いすることで世の中が盛り上がることにつながれば」と話す。地元開催の五輪に向けての公募は激戦で、五輪のテーマソングにもなった「栄光の架橋」「Hero」を車で流し、気持ちを盛り上げたのだという。
ビジネス面でのメリットもある。本田さんは「働き方が変化してきて、求められるスーツの形も変わってくる。未来のスーツを考えたときに、スポーツの機能性が求められるのではと考えた。それなら、トップアスリートのための服を作る五輪が貴重な機会になると思いました」という。
公募に通り、公式服装のお披露目をしたのは2020年1月23日。アスリートたちの採寸作業も徐々に進め、500着を作り進めている最中に新型コロナウイルスのパンデミックが起こった。
「新入生・新入社員向けのフレッシャーズ商戦が始まっている時に、大学の入学式や会社の入社式が次々に中止になって、
「我々としては1年後に向けて、もっと良いものを作る時間的猶予をもらったと前向きにとらえるようにしました」と上田さん。本田さんも「どういう形になっても、我々としては決められた日時までに、決められた品質をしっかりお届けするというのが、ぶれずに持ち続けていた思いですね」という。
実際に、パラリンピアンの障害のクラス分けについて勉強し、製造ラインを再点検するなど品質・技術の向上を目指した。今年に入って、近づく本番に向けて遅れていた採寸スケジュールをまきなおすなど、再スタートを切った。
ただ、気になるのが、コロナ禍の中での五輪の開催を巡り、意見が割れている点だ。「全員が一丸となっている状況ではないと理解している」と上田さん。開催されたとしても、入場行進で大勢の選手や役員が公式服装で勢ぞろいする「集団美」(本田さん)が実現できるかも明らかではない。
厳しい練習を重ねるトップアスリートや、公式服装のために懸命に努力してきたオールジャパンの職人たちと接してきた本田さんは、「人が頑張る姿を見て、明日も頑張ろうって思えるじゃないですか。東京2020はそんな頑張る人たちの努力をみてもらえる場になってほしいんです」。
そして、心の底からこう願っている。「盛り上がりの波が多少遅かったとしても、あんな形でやった日本ってすごいな、一度行ってみたいなと思ってもらえるように。実はあの服を作ったのはAOKIらしいよ、と思ってもらえるように、我々が今できることを、最大限にベストを尽くすだけです」。(文・大森亜紀、写真・秋元和夫)
東京五輪の「公式服装」用意するAOKI、コロナ禍で考える「ベスト」とは - 読売新聞
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