SDGsでは「誰一人取り残さない」が掲げられており、産業界でも身体・精神障害者や要介護者に向けた取り組みが少しずつ進められている。そんな中、「障害や病気を抱える人々が、健常者と同じ選択肢の中から服を選びファッションを楽しめる社会を創る」というビジョンを掲げた起業家がいる。コワードローブの創業者である前田哲平氏だ。従来は「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングに勤務。介助の必要がある子どもを持つ家庭に支持されて話題を呼んだ「KIDS コットン前あきクルーネックボディスーツ」の発案者である。
コワードローブは、障害や病気を抱える人の目線で服やファッションの情報を発信するWebメディアの運営を手がけている。また、障害者・要介護者向けに既成服のお直しを提供するサービス「キヤスク」の立ち上げに力を注ぐ。こちらは2022年2月にオープンさせる予定だ。
前田氏は3年をかけて800人を超える当事者や介助者にヒアリングし、「服に関する悩みを聞いてきた」という。同氏の話を聞きながら、誰一人残さない社会に求められる服の在り方、いわば「誰一人取り残さない良質な服装体験」の在り方を探る。
前田哲平(まえだ・てっぺい)氏。コワードローブ代表。1998年に大学卒業後、銀行勤務を経て2000年8月に「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングに入社。店舗運営・新規事業開発・販売計画・生産計画・経営計画・EC運営に従事。2018年から2020年にかけて、800人以上の障害や病気を抱える人々にヒアリングを実施し、服に関する様々な工夫や悩みを調査。2020年9月にユニクロが販売開始した前開きインナー商品開発プロジェクトに携わり、SNS・Webニュース・TVなどで大きな反響を呼んだ「子ども用ボディスーツ」の商品化を発案。全国のユニクロ店舗で障害者や高齢者がより買物しやすい環境改善に取り組む全社プロジェクトを立ち上げた。2021年1月にコワードローブを設立、現在に至る(写真撮影:筆者)
当事者ら800人に、服の不自由についての話を聞いた
障害や病気がある方々をターゲットに、服まわりの環境を整えることを事業領域にしています。なぜ、このような領域で事業を立ち上げようと考えたのか、その経緯を教えてください。
私はユニクロで2020年まで、約20年働いていました。最初の2年は店舗で、その後はユニクロ本部に勤務しまして、主にプランニングと言われる販売計画や生産計画の仕事、またインターネット通販の運営などを担当していました。
私は家族・知人に障害のある人はいなくて、障害と縁がないまま45年間生きてきました。3年前の42歳の時に、たまたまユニクロ社内で聴覚障害のある同僚と少し話をする機会がありました。
話の流れで、その同僚から「自分の周りにいる身体障害者は、洋服について困っていることが多い」という趣旨の話を聞きました。「身体に障害があると、既製服の多くは着にくい」「おしゃれなデザインや色にもこだわりたいが、着にくいという理由であきらめている」「店の試着室も使いづらい」といった具合に、服に不自由を感じているという話を聞いて、私は衝撃を受けました。
ユニクロは「あらゆる人に向けた服作り」を指向しており、私はそれに誇りを感じながら仕事をしていました。だからこそ、当時の私はなおさらショックに感じました。
私は純粋にその不便・不自由についてもっと知りたいと思い、障害や病気のある方々に会って、服に関するお困りごとについて話を聞いてみるという活動を始めました。2018年2月頃のことです。当時の自分が担当していた業務とは全く関係ありませんが、服を作っている会社で働いているのに知らないというのは嫌だな、と感じたことが大きな理由でした。とりあえず個人的な立場で聞きつつ、将来的にはユニクロとして何かを実現したいという想定もありました。
いろいろなつながりを経由して直接会わせていただいたほか、障害者団体にヒアリングのお願いもしました。また、インターネットも活用しました。ネット上でアンケートを取得したり、SNSのメッセージで話を拝聴したりしました。当事者の声を集めていった結果、その総人数は800人以上にもなりました。
聞けば聞くほどさまざまな不自由がありまして、話を聞くうちに「こうした不自由に対して、何か解決策を提案したい」と思うようになりました。そのようにして今、「キヤスク」として立ち上げようとしている、障害や病気がある方向けに既製服のお直しを提供するサービスを企画するに至りました。
障害者も楽しめる「服装体験」を|Beyond Health|ビヨンドヘルス - 新公民連携最前線
Read More
Tidak ada komentar:
Posting Komentar