着古した服はどう処分するのが一般的なのだろうか。環境省が調査したところ、「可燃・不燃ごみとして廃棄」(66%)が最多だった。要は、「ごみの日」に生ごみなどと一緒に服も捨てる家庭が過半数を占めているということだ。
その他には「地域・店頭での回収」「古着として販売」「資源回収」などが挙げられた。ここに新たに「土に埋める」という選択肢が加わるかもしれない。デザイン会社のシンクスドットデザイン(東京都港区)がそんな未来を創ろうとしている。
同社は2021年6月、”100%土に還(かえ)る服”として販売したTシャツのサブスクリプションサービス「Syncs.Earth(シンクス.アース)」を始めた。サービス開始当初のアイテムはTシャツのみ。最低着用期間は4カ月で月額980円とした。現在は、シャツやズボンなど計14アイテムまで拡充し、月額利用料金は1980円に設定している。
「100%土に還る服」とはどういうことなのだろう。生ごみなどをコンポストに入れてたい肥にするという話は聞くが、「服を土に埋めよう!」という話はあまり聞かない。サービスを運営するシンクスドットデザインに話を聞いたところ「貸し出す服は全て、土に還すことができる素材で作っている」という答えが返ってきた。
「当社では和紙から作った糸とオーガニックコットンを素材として採用しています。実証実験では、和紙は約3カ月、オーガニックコットンは約6カ月で完全に土に還りました」(シンクスドットデザイン澤柳直志氏)
土に埋める服の選定基準は、服の状態によってさまざま。しかし、半分以上生地がないなどボロボロな状態にならない限り、修繕したり、靴下などの他のアイテムに生まれ変わらせたりできるという。
サービスを開始してから日が浅いこともあり、実際に返ってきた服を埋めた実績はまだない。しかし、服を製造する過程で発生する裁断くずは土に還していて、重さは服1000着分に上る。
「服を作るうえで、生地の20〜30%は裁断くずになってしまいます。今までは服と同様に焼却処分が当たり前でしたが、裁断くずも服の一部と捉え、土に還すようにしています」(澤柳氏)
同社の「服を土に還す」取り組みの徹底ぶりは、こんなところまで広がる。東京の市内で耕作放棄地を自社でレンタルしているのだ。コンポストに入れて発酵させ、たい肥化するやり方も採用しているという。現在の服の廃棄量から考えると、コンポストで十分な気がする。なぜ農園を所有するほどに規模を拡大するのか?
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農園までいらなくない?
澤柳氏はアパレル業界に身を置く人間として、大量生産・大量消費という現実をずっと突きつけられてきたと話す。18年に高級ブランドのバーバリーが売れ残り商品を焼却処分したことが話題になったが、業界ではそれが当たり前だった。
「古着として販売することもできますが、最終的にはごみ箱に捨てられて焼却処分されてしまいます。それ以外の道はないのかを考えた時に、自然に還すのが最善策だと感じました」(澤柳氏)
環境省の調査によると、家庭から出される衣服のうちリユース・リサイクルされる割合は約34%。約66%はごみとして処分されてしまう。残り全ての衣服が回収され、リサイクルされ、原材料として生まれ変わったとしたら、最大で年間2500万トンの二酸化炭素排出が削減できる計算になる。これは、東京都における年間の二酸化炭素排出量の約4割に相当する。
服や裁断くずを土の中に埋めるだけだと、ただの産業廃棄になってしまう。そこで、コンポストを使用したり、土壌を管理したりすることで、土の中の生態系を破壊せずに服が自然に還るようにしている。
また、同社は農園で野菜も栽培している。今後は、農業コミュニティを立ち上げる予定だという。土に還る服を購入した人たちが、着古した服を土に埋める。その土で育てた野菜を食べるという循環型社会の構築にチャレンジしていく。
そうは言っても、現在のサブスク利用者は110人ほど。アパレル業界の悪しき慣習を壊すほどの影響力があるとは言い難い。さて、どうするのか。澤柳氏は今後の戦略について「循環購入」をキーワードに挙げる。
サブスクビジネスは売り切り型と比較して、服の製造や仕入れにかかる原価の回収期間が長期化する。そのため、サービス開始当初から大幅に利用が伸びるようなケースでないかぎり、短期的に売り上げが低迷し赤字が続く可能性がある。キャッシュに余裕がないとチャレンジしにくいビジネスなのだ。
「循環購入」は、通常商品の3分の2の価格で商品を販売し、着古したら返品するスタイル。サブスクをサブ事業として置きながら、循環購入の利用者を増やしていきたいという。
キッチンから出る生ごみをコンポストに投入し、ごみの量を減らす動きは、レジ袋の有料化や家庭用コンポストの登場に後押しされ、少しずつ浸透してきたように感じる。一般家庭で着古した服をコンポストに入れ、処分する未来もそう遠くはないかもしれない。
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