今、皆さんが着ている服。誰がどこで、どのように作ったものでしょう。その服を着なくなったら、どうするつもりですか。ごみ政策の先進地として知られる上勝町で、ごみ収集所やホテルからなる「ゼロ・ウェイストセンター」の運営に当たる大塚桃奈さんは子ども時代、デザイナーに憧れていたそうです。その後、物づくりの現場を知る中で、服と社会の関係性を考えるようになったそう。大塚さんが考える服と人、地球の理想的な関係とは、どんなものでしょうか。3月、上勝町で開かれた大塚さんによる講演「ファッションとゼロ・ウェイスト」(ゼロ・ウェイスト・アカデミー主催)の要旨をお届けします。
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大塚桃奈(おおつか・ももな)1997年、神奈川県生まれ。2020年、国際基督教大学を卒業。上勝町の「ゼロ・ウェイストセンター」の運営に関わる。母の同級生が上勝町で働いていると知り、迷わず移住を決めたという。
◆ファストファッションの裏側を考える
子どもの頃はデザイナーに憧れていました。高校生の時に奨学金を得て、ロンドン芸術大学に短期留学しました。デザインを学ぶのが目的でしたが、これがきっかけとなって「服と社会のつながり」に目が向くようになりました。
自分は「デザインに携わりたい」と思ってきたけれど、着ていたのはファストファッションの服がほとんど。服の「裏側」をあまり考えたことがありませんでした。「これからどうやって服を楽しむことができるのか」というのが大きなテーマになりました。
これは留学前に見た「ザ・トゥルー・コスト」という映画です。
今の私と同じぐらいの年齢のバングラデシュ女性は映画の中で、「簡単にセールに出され、捨てられている服が、どれくらい大変な思いで作られているのか。消費者はそれを知らない」と言います。安い服の裏には、低賃金で働いている途上国の人がいる。安い素材の場合、生産国では農薬の被害が出ている。トレーラー(予告編)だけ見ても、衝撃的です。
留学から帰国した後は、フェアトレードやオーガニック・コットンについて学び、実際にオーガニック・コットンを育ててもみました。見えなくなっていた服との関係を取り戻す行為に近かったと思っています。
服をどう作るか、よりも服を通じてどんな課題解決ができるか、と考えるようになり、リベラルアーツが学べる国際基督教大学に進学しました。
◆新しい物を売らないデパート、回収して新しい服に作り直すブランド…
大学生の時、「ミナ・ペルホネン」というブランドの店でアルバイトをしたことで、得たものも多くあります。「せめて100年続くブランドをつくる」ことをコンセプトにしたこのブランドは、セールをせず、作り手や服そのものとの関係性を重視しています。
日本の繊維産業に目を向けると、安価な輸入衣料の流通や労働力不足によって衰退しています。「フェアトレード」って海外のことと思いがちですが、日本の中にも課題はある。服と社会の在り方を考えたとき、ローカルな視点でも取り組まないといけないと思いました
大学時代にも留学しました。行き先はスウェーデン。SDGSの取り組みは世界でもトップレベルで、テキスタイルも人気があります。
私は自分の目で見たことを信じたいタイプ。だからスウェーデンでも繊維工場や作り手を訪ねて回りました。染色をしたり、布に絵を描いたりという活動をする障害者のグループ、古着を回収、解体して新しい服にデザイナーが作り直す「リメイク」というブランド、資源回収所と一体化していて世界初の新しいものを売らないショッピングモール「リトゥナ」…。いろいろな取り組みに触れました。
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(大塚さん提供)
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新しい物をを売らないモール ©Lina Östling
デンマークで開催されたコペンハーゲン・ファッションサミットに参加する機会も。ファッションのダボス会議と呼ばれています。COP21をきっかけに、服のサステイナビリティを本気で考えないといけないということで立ち上がった会議で、2日間で数十カ国の関係者が労働問題や動物福祉のほか、サーキュラー・ファッションという捨てない服の在り方を話し合います。ヨーロッパではこうした方向へ動きつつあるのだと感じました。
個人的な活動としては、留学生同士で服の交換会をしていました。人の心は移ろうので、服に飽きちゃうこともあるけれど、それを捨てるんじゃなくて、その記憶とともに友達と交換する。友達から思い出をもらうことで、関係性も深まることもあります。
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服の交換会。大塚さんはこの赤いドレスを譲り受け、上勝にも持ってきているという(大塚さん提供)
下の図は留学中に、ある大学院生に教えてもらった考え方です。「買う」というのは最後のオプション。買うまでにいろんなステップがあります。まずは自分が持っているものを使う。次に借りる。「買う」という行為は、お金さえあれば簡単にできてしまうけれど、間にあるいろんな選択肢にも目を向けていかないといけない。そう教えてくれました。
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まず、「自分が持っているものを使う」、次に「借りる」「交換する」「リサイクル」「作る」、そして最後に「買う」(大塚さん提供)
◆日本では不要になった服はどこへ?
次に、日本の服の現状を考えてみます。作る過程と捨てる過程で見ていきます。まず、作る過程で環境にどんな負担があるのか。
環境省によると、CO2排出の45%は服の原材料調達によるもの。1990年と比較すると、衣服の購入量は横ばいですが、供給量は1・7倍に増えています。大量に作り過ぎています。
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不要になった服をどこに捨てるのか。ごみとして出された衣服の行先は焼却埋め立てが大半で、5%しか再資源化されていないという国内の状況があります。捨てられている服がちゃんと回収、リサイクルされて原材料に戻ったら、年間で最大2500万トンのCO2排出量が削減できると言われています。これは東京の年間のCO2排出量の約4割に相当します。
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◆サーキュラーな服作りへの転換
求められているのは、サステイナブル、サーキュラーな服作りへの転換。ファッションブランドも少しずつ作り方を変えてきています。
最近、バーチャルファッションという楽しみ方があります。そもそも服を作らない、買わない。それでCO2を削減できる。「ほんとに?」と思いますが、服の価値の在り方もオンラインにシフトチェンジしています。インスタグラムに投稿する写真にバーチャルで買った服をオンするようなムーブメントもあるようです。素材開発も進んでいます。クモの糸を人工合成でつくる「スパイバー」という山形県のベンチャーがあります。キノコを培養する技術で服を作る「マイコテック」というインドネシアのベンチャーも。これも面白い動きだなと思います。無駄のない作り方をしているブランドも。イッセイミヤケのデザイナーだった高橋悠介さんが立ち上げた「CFCL」は、素材調達から透明性を担保しています。スタイリッシュで、かつ家でも手入れできます。ブランドとして、服を作るプロセスを提示しています。服を捨てないというアプローチもあります。「マッドジーンズ」というヨーロッパのブランドは、不要になった服を回収します。サブスクで服を楽しめます。リペアのキャンペーンをする「パタゴニア」のような例もあります。
こうした取り組みが国内外に広がりつつあります。素材開発から「捨てない」アプローチまで、いろんなブランドが取り組んでいます。
◆服から「豊かさ」を生むために
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上勝町ゼロ・ウェイストセンター(大塚さん提供)
現時点で、上勝の服がどうなっているのかを改めて考えてみます。3つの行き先があります。一つは、リユースを推進するくるくるショップで別の持ち主の元へ。二つ目は、衣類として集められ、中古品として、またウエスになって再販売されます。そのほか、汚れている衣類などは固形燃料になります。
これら3つの行き先で、衣服の価値はどうなっているのでしょう。売却益が多いのは、金属や紙で、古布にはほとんど価値がないんです。これは上勝の現状ですが、日本全体の現状でもあります。
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取引単価はそのときどきによって変わる(大塚さん提供)
衣服を作る段階から素材の行き先が確保されていることが必要です。今は自由に作れて、自由に捨てることができます。しかし、実際には捨てる費用を自治体、住民が負担しています。作る段階から価値が保たれるような作り方をして、回収されやすい制度設計をして、生活者が主体的にその選択肢を選べるようにサポートしていく。それが一つの理想のサイクルじゃないかと思います。
今、自分が着ている服には不透明なことが多い。そこに光を当てて、見えなくなっている関係性を見つけていくことがゼロ・ウェイストにつながると私は思っています。一番大切なのは心なんじゃないかと思います。記憶、服への愛着。服の作り手が見えて、関係性が続くつながりをつくっていく。そういうことが暮らしの中の豊かさにつながっていくと信じています。
これからの時代の、服と人との幸せな関係 - 徳島新聞
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