障害があるからこそ描ける「異彩のアート」がある。2018年に設立したヘラルボニー(盛岡市)は、主に知的障害のある作家の作品をブランド化し、服や雑貨、空間デザインに生かしている。「特性があるからこういう表現が生まれる。そう言い切ってやっていける可能性がある」と松田崇弥社長(30)は信じる。
在籍する作家は現在153人。作品の著作権を管理し、商品に使いたい企業に紹介する。登録数は約2000点。一企業のために描くわけではなく、作家たちが自由に、納期を気にせずに創り上げた作品から、企業側に選んで使ってもらう。
2人は自閉症の兄翔太さん(34)と岩手県で育った。「ヘラルボニー」は、翔太さんが昔から何度も書き付けていた、本人に聞いても意味は分からない言葉。崇弥さんは「兄はこの社会で障害者とされるのは事実。でも、異なる彩りもあるという事実も伝わっていけばいい」と語る。
障害のある人のアートに崇弥さんが可能性を感じたのは24歳の時。現在は仕事のパートナーでもある岩手県花巻市の「るんびにい美術館」を初めて訪れ衝撃を受けた。同時に「美しい形で社会に出したい」と思った。どう見せるかで作品の印象は変わる。福祉の枠から外に出て、高級感のあるブランドという世界観をつくってきた。
翔太さん自身はアート活動はしない。障害がある人も当然、得意な分野は違う。目指すのは、才能があり、意欲のある人が力を発揮できる平等な社会だ。この年度末、作品の使用料で数百万円を稼ぎ、確定申告をした作家は10人ほどいる。「落書きだと思っていた息子の絵を今は家じゅうに飾っている」と喜ぶ家族からの言葉は、見いだした価値が確かなものという証しだ。(神谷円香)
◆「の」は生き物のよう 新連載の題字、描いた才能
国連のSDGsを鍵に未来を考える新連載「明日への扉」の題字は障害のある作家の作品だ。東京五輪・パラリンピックやSDGsの浸透を追い風に、独自の良さを生かした商品開発などの動きが活発になっている。
菓子製造と創作活動を通じて自立を目指す東京都渋谷区の福祉作業所おかし屋ぱれっと・工房ぱれっと。五十嵐成美さん(21)が題字の制作を実演してくれた。輪郭を描いた後、ぐるぐると丸を描いて塗りつぶしていく。自閉症で取材の間、言葉を発することはなかったが、描き進めるうちほおが赤くなり、笑顔になった。
2人の作品はともに、渋谷区の知的・精神障害者らの施設の利用者と、デザイン専門学校の学生が一緒に開発する書体「シブヤフォント」に採用されている。
シブヤフォントは東京五輪・パラリンピックに向け区が掲げた「渋谷区らしい土産品づくり」のプロジェクトの中で生まれた。現在は40社以上の企業からフォントなどを利用した衣類や傘、インテリアなど300〜400点の商品が発売されている。
おかし屋ぱれっとは1985年にスタート。年齢を重ねた利用者は立ち仕事が難しくなり、2013年に工房ぱれっとを立ち上げ、ウサギの縫いぐるみ作りなどの創作活動も始めた。
ウサギの胸につけるワッペンとして利用者が書いた文字を、施設を訪れたデザイン学生たちが見て面白がったことも、フォントの開発につながっている。
玉井七恵所長(35)は「いろんな才能を持ったメンバーがいることを知ってもらえる機会が増えた。メンバーの自己肯定感も高まり、生きがいにもつながっている」と話す。(早川由紀美)
題字ができるまで 一人ひとりの良さが生きる社会を目指したいという思いを込めて、一般社団法人シブヤフォントに題字制作を依頼。作家が描いた原画に、本紙デザイン課の高橋達郎が着色した。
◆シブヤフォント磯村さん「一時的な流行に終わらせない」
現状と課題などについて、一般社団法人シブヤフォント共同代表の磯村歩さん(55)に聞いた。
2012年ロンドン五輪の文化プログラムで障害のある作家の活動を支援する「アンリミテッド」が成功したことが、注目される一つのきっかけになった。
東京五輪・パラリンピックを前にした18年に障害者文化芸術推進法が成立。厚生労働省や文化庁が事業を充実した。作品をデータ化し、広告などに使用したい企業などに仲介する民間の中間支援組織の動きも活発になった。
商業デザインは、市場を念頭に置いて作られているが、障害のある作家は自由に描いている。両者の溝を埋め、どう市場に届けていくかの価値付けが求められている。シブヤフォントでは、デザイン学生がその役割を果たしている。一時的な流行に終わらせないよう、障害者と地域のつながりを深めることにアートが貢献できればとも考えている。
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