青木美沙子さん(写真:『まっすぐロリータ道』)
日本発のファッションで世界各地に愛好家がいるロリータファッション。その奥深い世界についてロリータモデルの青木美沙子さんがつづった著書『まっすぐロリータ道』より、一部抜粋・再構成してお届けします。
日本の服飾文化であるロリータファッション
「ロリータ」と聞いて、まずどんなファッションを想像しますか? フリルやレースたっぷりの生地に、キラキラのリボンがたくさん飾られていて、パニエでふんわりふわふわにふくらんだスカート、くるくる巻いた髪にはリボンやボンネット……。まるで18世紀のフランス王妃、マリー・アントワネットのようなイメージから「ロリータは西洋の伝統的なファッション」と思っている方が多いようです。
しかしじつは、日本で1980年代にストリートファッションとして誕生した、れっきとした日本発のファッションスタイル。ヨーロッパのバロックやロココ、ヴィクトリア時代の華やかなドレススタイルをベースに、日本独自の〝少女趣味アレンジ〞が加わって発展してきました。
ヴィヴィアン・ウエストウッドの影響を受けた「M I L K(ミルク)」を皮切りに、さまざまなメゾンがロリータテイストの服を製作するようになり、現在まで続いているのです。
ロリータ服はその繊細なデザインや凝ったディテール、技術の高さから、日本の伝統文化である着物にたとえられ、海外では〝現代の着物〞のようにいわれることもあります(価格も高いですし……)。確かに、デザイン性の高さや細部の作り込みなどに日本人らしさがよく表れていて、眺めていると、日本の誇るべき服飾文化だなと思えます。
「ロリータ」という名称自体は、ナボコフの小説『ロリータ』に登場する少女が語源といわれていますが、ロリータファッションとの直接的な関係はありません。80年代の原宿で産声を上げたロリータは、いまや世界じゅうにファンをもつ、日本の〝K A W A I I 文化〞のアイコンのひとつ。
といって、順風満帆、右肩上がりで認知度を高めてきたわけではありません。というか、発祥の地である日本では、山あり谷ありの歴史をたどってきました。何度かブームとして盛り上がりをみせ、その後衰退して「男ウケの悪いファッション」なんて不本意なレッテルを貼られたことも。
ロリータを愛する人たちにとっては長らく、肩身のせまい時期が続きました。けれどこの数年、世間では〝多様性〞が求められる影響もあってか、ロリータの魅力が再び評価されつつあります。ロリータの誕生からずっとともに歩んできた私にとっては、やっとおもしろい時代がきた!という感じです。
それと、よく混同されがちな誤解について。「ロリータ」と「コスプレ」は、まったくの別物です。一般的にコスプレのほうが有名なので、ロリータファッションで街を歩くとコスプレだとみなされがち。
ですが、コスプレはキャラクターになりきるためのもので、ロリータは自分自身のファッション表現。マリー・アントワネットのような衣装にあこがれてロリータ服を着たとしても、マリー・アントワネットそのものになりたいわけではないので、互いの目的の違いを知っていただけるとうれしいです。
甘ロリ、和ロリ…… 奥深いロリータの世界
ロリータファッションの本質は「お姫さまみたいに美しくなりたい」「お人形のようにかわいくなりたい」という〝自分〞のために着ることにあります。そのため、基本となる少女趣味なスタイルに、さまざまな解釈を加えることでさまざまな個性が生まれました。
だからひと口に「ロリータファッション」といっても、細かくみれば複数のカテゴリーに分けられます。おもなスタイルだけでも、
●スウィートロリータ……「甘ロリ」とも呼ばれる。アニマルやスイーツをモチーフにした、甘い雰囲気のかわいらしいスタイル。ロリータファッションとして、一般にイメージされることが多いのがこちら。
●姫ロリータ……通称「姫ロリ」。マリー・アントワネットのような、ゴージャスでデコラティブなスタイル。レースやチュールをふんだんに使ったドレスに、特大のボンネットや最大数のパニエなど、小物もたっぷりとつける。最上級のロリータという位置づけで、ファッションショーではランウェイのラストを飾ることも。
●クラシカルロリータ……ロココ風など、ヨーロッパの伝統的なスタイルをアレンジ。上品な小花柄や、落ち着いた色合いが特徴。
●ゴシックロリータ……ロリータにゴシックの思想をかけ合わせたスタイルで「ゴスロリ」とも呼ばれる。黒をベースに、退廃的な雰囲気の漂うデザインが特徴。ヴィジュアル系バンドや、そのファンにも愛好家が多い。漫画『DEATH NOTE』でミサミサが着ているのがこちら。
●和ロリータ……通称「和ロリ」。ロリータに日本の伝統的な着物や浴衣のテイストを加えた、和風スタイル。正月や祭りなど、日本の伝統行事の際にも好まれる。
●ソフトロリータ(カジュアルロリータ)……基本のロリータを、装飾をひかえめにするなどカジュアルダウンさせたスタイル。仕事や学校の都合上、ロリータファッションを着づらいと感じる人にも人気。
などなど多種多彩。また、ロリータとパンクをかけ合わせた「パンクロリータ」など、かつて人気を博しながらも、今ではあまり見かけなくなってしまったスタイルもあります。ロリータも、時代の栄枯盛衰からは逃れられません。
しかしいずれも、ロリータを着る人たちそれぞれにとっての〝カワイイ〞を追求した結果、広がっていった世界です。街でロリータファッションを見かけたら、どのカテゴリーに属するか、心の中で分類するという楽しみ方もあるかも……?
なぜ、ロリータモデルは笑わないのか?
もし、これまでロリータと縁遠かった方がロリータ服を扱うメゾンのサイトにアクセスしたら、きっと見慣れたファッションページとは少々違って見えるはず。そこに映るロリータモデルたちは、カメラ目線で歯を見せて笑ってはいないでしょう。むしろ、伏し目がちでごくひかえめに微笑みながら、シンプルにたたずんでいるのではないでしょうか。
モデルなのに笑わないの? →私たちロリータは「人形(ドール)に近づく」ことこそが至上命題。できるだけ生々しさから遠ざかることが重要です。そのため、いわゆるファッションモデルとはかなり違う独自性をもっているのです。
そんなロリータモデルのひとりとして私が重視しているポイントは、まず、やせすぎないこと。メリハリボディ、胸が大きくてセクシーといった〝大人の女性らしさ〞という意味ではなくて、ちょっとおなかが出ているくらいの丸みを帯びたボディラインのほうが、ロリータ服のもつふんわりとしたイメージに合うと思うのですが、いかがでしょう?
顔だって、あごがとがりすぎたり頬がこけたりしないよう、過度なダイエットはしません。特にアラフォーともなると、やせすぎは体が骨ばった印象になったり、皮膚にシワが寄ったり、生々しさへのパスポートになりかねません。だから見る人に安心感を与えるような、ほどよいマシュマロボディが目標です。
それでいえば、歯を見せて笑わないのもお約束。〝喜怒哀楽〞をストレートに表すのは生身の人間っぽいので、少し口角を上げて微笑んでみせるくらいで、できるだけ表情が出る動作は抑えます。
唐突ですが、顔のパーツのなかでもっとも表情が出るのはどこだと思いますか? じつは「眉」。だからヘアスタイルは、眉を隠せるくらいの重めぱっつん前髪に、ストレートの姫カットが基本なのです。
ロリータ服を着て「棒立ち」する理由
そして、ポージング。女性ファッション誌では定番の〝髪を風になびかせて、さっそうと街やオフィスを闊歩する〞ワーキングウーマンスタイルも、ロリータの世界には存在しません。だって、ロリータは働かないから……(笑)。メイドさんがすべてやってくれるので、労働を知らぬロリータは、ただそこに静かにたたずむのみです。棒立ちです。
でも、そこにはちゃんと「ロリータ服のよさを最大限に魅せる」という狙いも共存しています。ロリータ服は襟元から裾先まで、360度どこから見ても美しく作られた完璧な存在ですから、しゃがみ込んだり体をひねったりしてしまえば、繊細なデザインや凝ったディテールが隠れてしまいます。
その魅力をじゅうぶんに映し出すことができない……そんなの、ロリータにとっては悲劇でしかありません。だから、棒立ち。ダイナミックなポージングは必要ないのです。
ロリータ服がいちばんの主役で、それを着るモデル(ドール)は、その魅力を伝えられるよう最大の努力で応える……ロリータモデルを始めて試行錯誤した結果、この独特のスタイルに行き着きました。
イメージは、絵に描かれた人形(2次元)と生身の人間(3次元)の間に位置する、限りなく人形に近い人間=2・5次元の存在。もちろん私個人の解釈ではありますが、今のロリータモデル界においてこのポージングは、ごく一般的なものとして浸透しているように思います。
(青木 美沙子 : ロリータモデル・正看護師)
「ロリータ服」をコスプレと思う人に欠けた視点 - au Webポータル
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