コムデギャルソンのデザイナー、川久保玲さんが好んで着用するのは、テールコートやライダーズ・ジャケットです。川久保さんは、そうした「現代ファッションの古典」を絶えず変化させ、世に出してきました。連載の最終回で、鈴木さんはフランスの詩人ボードレールが残した言葉と、川久保さんの姿を重ねたうえで、川久保さんがなぜ「強く、新しいもの」に強くひかれるのかと問いました
ここにいたって、話は「制服」の問題にたどりつく。
日本語でも欧系言語でも画一性の衣服を意味する「制服」(=ユニホーム=uniform)は、ミリタリー・ウェアやワーク・ウェアという形態において、つねに最重要のモチーフのひとつをファッションに提供してきた。ファッションとは、気まぐれに移り変わる流行現象でもあるのに、だ。
「制服」とは読んで字のごとしで、「制度」がしからしめるところの「服」である。それは、欧語系言語では、uniとformからなるuniformであり、「uni」は「ひとつの」を意味し、「form」は形式・形態を意味する。「ユニホーム」とは、それゆえ、画一的な形態の服である。大小・種類さまざまななんらかの制度によって均一・画一のものとして決められた形をとる服だ。それは、制度にとって「正しい服」として、逸脱を許されない。「制服」は「正服」である。
現代のもっとも自由で非同調的なファッション・デザイナーである川久保さんは、しかし、ユニホーム的な服装を好んで着用する人でもある。この日も、すでに述べたように、黒いテールコートと黒いチャイナ・シャツを着ていた。
「制服の魅力は、それが政治的平等の美であるからだ、とボードレールはいっています」と、僕は川久保さんに向かっていった。たとえば、農村出身の若者も都会出身の若者も貧しい家に生まれた若者も裕福な家に生まれた若者も、軍服という名の制服を着れば、出自や氏素性にかかわらず、平等で対等な兵隊としての相互関係を取り結ぶことができるようになるという意味において、制服は平等化の装置である、と。ユニホームは、一面では、制度=システムの服として不自由の表徴であることをまぬかれないにしても、他面では不平等な個々の存在を平等な存在へと解き放つものでもあるという矛盾の服なのではないだろうか、と。
川久保さんの前では、もっとしどろもどろないいかたになってしまったけれど、じぶんでは、そのようなことをそこそこ伝えられたかもしれないと期待して応答を待っていると、川久保さんは、「わたしもこれ(黒いテールコート)が好きで、これかライダーズ・ジャケットにチャイナを着ているんです。ユニホームなんです、わたしの」と、やわらかな笑みとともにいった。
「理由は分からないけれど……」 その後に
またしてもボードレールを引…
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川久保玲の現在地⑤なぜ、制服が好きなんですか?:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル
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